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大阪地方裁判所 平成6年(ワ)2190号 判決 1995年12月11日

原告

大瀬良優子

ほか二名

被告

藤原猛

主文

一  被告は原告大瀬良優子に対し、金八六一九万四二二二円及び内金八〇一九万四二二二円に対する平成四年一月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は原告大瀬良ヨシヱに対し、金二二〇万円及び内金二〇〇万円に対する平成四年一月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告は原告大瀬良民男に対し、金一六五万円及び内金一五〇万円に対する平成四年一月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

五  訴訟費用は、これを七分し、その四を被告の負担とし、その余を原告らの負担とする。

六  この判決は、第一ないし三項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告は、原告大瀬良優子(以下「原告優子」という。)に対し、金一億五七二三万五七九九円及び内金一億四二二三万五七九九円に対する平成四年一月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告大瀬良民男(以下「原告民男」という。)及び同大瀬良ヨシヱ(以下「原告ヨシヱ」という。)に対し、各金四四〇万円及び各内金四〇〇万円に対する平成四年一月二日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、横断歩道を足踏み自転車に乗つて横断していた者が、普通貨物自動車に衝突され、傷害を負つた事故につき、右自転車の運転者とその父母が、普通貨物自動車の運転者に対して、自賠法三条に基づき、損害賠償を請求した事案である。

一  争いのない事実等(証拠摘示のないのは争いのない事実である。)

1  本件事故の発生

(一) 日時 平成四年一月一日午前二時五〇分ころ

(二) 場所 大阪府大東市津の辺町一番一号先(国道一七〇号線)路上

(三) 加害車 被告運転の普通貨物自動車(大阪四一ち二三四〇)

(四) 被害車 原告優子運転の足踏み自転車

(五) 態様 加害車は、信号機により交通整理の行われている交差点を時速約八〇キロメートルで南進し、同交差点南側に設置された横断歩道を、対面信号青色表示に従い東から西に向つて足踏み自転車に乗つて横断していた原告優子を撥ね飛ばした。

2  被告の責任

被告は、自賠法三条に基づき、本件事故につき責任を負う。

3  原告優子の受傷内容、治療経過、後遺障害

原告優子は、本件事故により、脳挫傷、硬膜下水腫、骨盤骨折等の傷害を負い(甲二の1)、左記のとおり入院治療を受け、平成五年三月一八日、症状固定し、自賠法施行令二条別表後遺障害等級表(以下「等級表」という。)第一級三号の認定を受けた。

(一) 平成四年一月一日から同年二月一八日まで

医療法人徳州会野崎病院(以下「野崎病院」という。)

(二) 同日から同年一〇月一二日まで

医療法人寿会富永脳神経外科病院(以下「富永病院」という。)

(三) 同月一三日から平成五年三月一八日まで

星ケ丘厚生年金病院(以下「星ケ丘病院」という。)

(四) 同月一九日から同年一〇月一日まで

医療法人大道会ボバース記念病院(以下「ボバース」という。)

4  治療費

原告優子は、症状固定までに、治療費三二四〇円を要した。

5  損害の填補

原告優子は、損害の填補として、合計三二〇三万四三五〇円の支払いを受けた。

二  争点

損害額

(原告らの主張)

1 原告優子の損害

(一) 治療費(症状固定後の費用) 三七〇〇円

(二) 付添看護費 八六四二万四〇二八円

(1) 症状固定までの付添看護費 二七七万四〇五八円

原告優子は、本件事故により、前記のとおりの重篤な傷害を負い、入院治療を続けたため、母である原告ヨシヱは、当時勤務していた会社を休業、退職して、原告優子の看護に専念した。原告ヨシヱの当時の月収は一九万〇〇〇四円であつたので、本件事故日から症状固定日まで(一四か月一八日)の付添看護費は、次のとおりとなる。

一九〇、〇〇四円×(一四+一八÷三〇)=二、七七四、〇五八円

(2) 症状固定後の介護費 八三六四万九九七〇円

症状固定後、原告ヨシヱが六七歳になるまでの二一年間は、同原告による介護が相当であり、その後の四四年間(原告優子の症状固定時の平均余命は六五・七九歳)は職業付添人による看護が相当であるところ、原告ヨシヱの介護費用は同人の前記収入に照らし、日額六〇〇〇円とするのが相当であり、職業付添人の費用は、日額一万円を下らないから、右看護費用は次のとおりとなる。

<1> 原告ヨシヱの介護費用

六、〇〇〇円×三六五×一四・一〇三=三〇、八八五、五七〇円

<2> 職業付添人の介護費用

一〇、〇〇〇円×三六五×(二八・五五九-一四・一〇三)=五二、七六四、四〇〇円

(三) 付添人寝具費用 三万七四五〇円

富永病院における原告ヨシヱの寝具費用

(四) 交通費 四〇〇万五一一七円

(1) 症状固定まで 三九万六四三八円

原告優子の入院付添看護や見舞のために要した原告民男と同ヨシヱの交通費

ガソリン代 一六万九五七八円

高速代 六万一一〇〇円

電車賃 一四万六二四〇円

タクシー代 一万九五二〇円

(2) 症状固定後ボバース退院まで 一二万七〇二九円

ボバース入院中の原告優子の付添看護や見舞のために要した原告民男と同ヨシヱの交通費及び原告優子の自宅外泊のための交通費

ガソリン代 九万五二七九円

電車賃 二万八一八〇円

タクシー代(但し、原告優子の自宅外泊のため)三五七〇円

(3) ボバース退院後 三四八万一五六〇円

<1> 平成五年一二月末日まで 一八万八六四六円

原告優子が星ケ丘病院やボバース等に通院するために要した交通費

タクシー代 一四万五四七〇円

ガソリン代 四万三一七六円

<2> 平成六年一月以降 三二九万三〇〇四円

原告優子は、平成六年以降少なくとも五年間にわたり、前記各病院に通院する必要があり、その交通費として月額右<1>の平均額である六万二八八二円を要するから、右費用は次のとおりとなる。

六二、八八二円×一二×四・三六四=三、二九三、〇〇四円

(五) 入院雑費 七九万二六〇〇円

(1) 症状固定まで 五七万五九〇〇円

一、三〇〇円×四四三(入院日数)=五七五、九〇〇円

(2) 症状固定後ボバース退院まで 二一万六七〇〇円

一、一〇〇円×一九七(入院日数)=二一六、七〇〇円

(六) 医療器具代等 一三万一五〇〇円

車椅子レンタル代 四五〇〇円

車椅子代 一二万七〇〇〇円

(七) 紙おむつ等特別雑費 一三万四九三四円

(1) 症状固定まで 一二万〇〇二二円

(2) 症状固定後 一万四九一二円

(八) 文書料 二万七三八〇円

(九) 医師への謝礼 八万円

(一〇) 家屋改造費 四一八万一三〇〇円

自宅玄関、廊下、風呂等の改造費

(一一) 特別寝台費等 四万八〇〇八円

(一二) 逸失利益 四九四〇万〇八九二円

原告優子は、高校に在学中の健康な女子であつたから、本件事故がなければ、高校卒業後就労可能年数六七歳までの四九年間就労し、平成四年産業計、企業規模計、女子労働者の学歴計一八ないし一九歳の平均賃金年収二〇二万三三〇〇円を取得しえたところ、労働能力を一〇〇パーセント喪失した。

二、〇二三、三〇〇円×二四・四一六=四九、四〇〇、八九二円

(一三) 慰謝料 二九〇〇万円

(1) 傷害慰謝料 四〇〇万円

(2) 後遺障害慰謝料 二五〇〇万円

(一四) 弁護士費用 一五〇〇万円

(一五) 損害額合計 一億八九二七万〇一四九円

右合計に第二、一4の治療費三二四〇円を加算した額

2 原告民男及び同ヨシヱの損害 各四四〇万円

(一) 慰謝料 各四〇〇万円

(二) 弁護士費用 各四〇万円

(被告の主張)

1 入院付添費及び症状固定後の介護費について

原告ヨシヱによる付添いを要した期間は、病院がその旨の証明をしている平成四年一月一日から同年二月一八日までの四九日間である。その後の近親者の付添いは肉親の情によるものに過ぎないから認められない。

将来の介護費については不確定な要素があるため、今後一五年間に限られるべきである。

2 交通費について

入院中の交通費は付添看護費に含まれるので、認められない。

3 自宅改造費について

必要・妥当な範囲を超える。

4 慰謝料について

傷害慰謝料は、三五〇万円が相当であり、後遺障害慰謝料は、原告ら三名で二二〇〇万円が相当である。

第三争点に対する判断

一  前記事実に、証拠(甲二の1ないし4、三ないし一二の各1ないし3、一三の1、2、一四ないし一七の各1ないし3、一八の1、2、一九ないし二一の各1ないし3、二二の1、2、二三、四五、五一ないし五七、乙二の1ないし4、三の1ないし10、四の1ないし4、原告ヨシヱ)及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。

1  源告優子の受傷内容、治療経過及び後遺障害

原告優子(昭和五〇年四月一一日生、高校一年生)は、本件事故により、脳挫傷、硬膜下水腫、骨盤骨折、左上腕骨々折、右大腿骨転子部骨折、左骨関節突起骨折等の傷害を負い、野崎病院に救急搬入され、脳圧亢進に対する加療及び全身管理を行う目的で入院となり、右骨折については、全身状態の回復が認められるまで保存的に加療する方針で治療が施され、仮骨形成が認められる状態になつた。また、呼吸状態が不安定なため、平成四年一月九日には、気管切開して一時人工呼吸器による呼吸管理がなされたが、次第に自発呼吸の安定を取り戻した。意識レベルは徐々に改善し、開眼状態となり、刺激にかなり反応し、若干の経口摂取も可能となつたが、硬膜下水腫の増悪のため同月二八日、穿頭水腫除去術が施行された。上肢はやや痙性麻痺の状態であり、四肢関節は軽度の拘縮を伴つていたので、リハビリが実施されていた。その後、原告優子の父母の原告民男と同ヨシヱの希望により、同年二月一八日、富永病院に転院した。同病院で、頭部外傷第四型、外傷性遷延性意識障害、外傷性くも膜下出血等の診断を受け、右症状に対する保存的治療及びリハビリを受けた。その結果、同年六月一八日、意識が回復し、言葉を発することはできないが、簡単な会話は理解できるようになり、また全身状態も改善し、運動機能も向上したため車椅子に乗れる(但し、車椅子での移動には介助が必要)までに回復した。その後、リハビリの継続を希望して、同年一〇月一三日、星ケ丘病院に転院した。右時点においても、四肢不全麻痺、構音障害及び知的機能の低下が認められ、同病院において、頭部外傷後遺症との診断を受け、薬物療法とリハビリを受けた。その結果、口唇の動きには軽度の改善がみられたが、発語での会話はできず、文字盤によるコミユニケーシヨンが可能となり、当初は、おむつを着用し、入浴や洗面、衣服の着脱、車椅子の操作に介助を要し、食事はスプーンを用いて半介助でなされていたが、次第に改善され、車椅子への移乗やトイレ動作、浴槽からの立ち上がり等に介助を要するのみとなつた。そして、平成五年三月一八日、後遺障害の内容として「四肢の腱反射全て亢進(右側が強い)、発生時軟口蓋の動き全くなし、IQ(推定四〇)、言語性IQ六二、動作性IQ換算不可(三〇以下)大脳、小脳萎縮、全般性に徐波の混入が多い。」等の診断を受け、等級表一級三号の認定を受けた。

2  症状固定後の入通院経過

原告優子は、症状固定後も、前記した後遺障害の症状を少しでも改善するため、平成五年三月一九日から同年一〇月一日までボバースに入院して、リハビリを受け、同日軽快退院し、その後は、同病院及び星ケ丘病院に週一回程度通院してリハビリを受け、また、神経性膀胱頻尿、尿失禁についての治療を受けるとともに、東大阪養護学校に通い、高校一年生程度の内容ではあるが、その能力に合わせた勉強をしている。

3  原告優子の症状

原告優子のボバース退院時の状況は、平坦な床面であれば、自ら車椅子を駆動して移動させることが可能であるが、段差のある箇所では介助を要する状態にある。また、着脱衣やはしを使つての食事、静止座位の保持及び両手で支えての立位保持は可能であるが、体や下肢の支持性に乏しいため、立位が必要な日常生活動作、すなわち、ベツドから車椅子への移乗や浴槽からの立ち上がり、トイレ動作には介助を要する。さらに、「はい」「いいえ」などの簡単な発語はできるが、構音障害や知的機能低下のため、新しいことを覚えることが難しい。右状況のため、現在の機能を維持もしくは向上させるためには、今後も通院のうえ、継続的なリハビリを続けることが必要である旨、ボバースの医師は診断している。

二  以上認定の事実に基づき、原告らの損害を判断する。

1  原告優子の損害(円未満切捨て)

(一) 治療費 六九四〇円

症状固定日までに治療費三二四〇円を要したことは当事者間に争いがなく、証拠(甲四一の1、2、原告ヨシヱ)によれば、ボバースでのリハビリのため、指導料五〇〇円、材料費三二〇〇円を要したことが認められる。

(二) 付添看護費 三一四九万三五一九円

(1) 症状固定まで 一〇〇万八五〇〇円

原告優子は前記のとおり、本件事故当日から症状固定日まで入院治療を受けたところ、野崎病院を退院する平成四年二月一八日までの四九日間につき、母の原告ヨシヱによる付添看護を要したことは当事者間に争いがないので、この間の付添費は二二万〇五〇〇円(四、五〇〇円×四九)をもつて相当と認める。なお、原告優子は、月額一九万〇〇〇四円の看護費を主張するところ、証拠(甲二七、原告ヨシヱ)及び弁論の全趣旨によれば、原告ヨシヱは、本件事故のため、勤務していた会社を休業・退職して原告優子の看護にあたつたこと、当時の原告ヨシヱの平均月収が一九万〇〇〇四円であつたことが認められるものの、右額をもつて付添費と認めることはできない。

富永病院及び星ケ丘病院は、弁論の全趣旨によれば、完全看護の態勢にあつたと認められるところ、原告ヨシヱは、右のとおり、現に付添看護をなしたこと、甲五三によれば、星ケ丘病院の医師は平成七年一〇月四日付で、同病院入院中は原告優子が精神的に不安定であつた等のため、家人の付添を要した旨診断していること、他方、甲一五ないし二一の各1(平成四年一一月四日付以降同五年四月二〇日付までの、同病院医師作成の診断書)によれば、同病院入院中、付添看護を要した旨の診断はなく(右各診断書の付添い看護を要した期間欄は空欄である。)、乙三の5、6(同病院の看護記録及びワークシート)によれば、原告優子のおむつ交換、シヤワー、洗面の介助等、当時原告優子が必要とした介助の殆どを病院側でなしていたことが認められる。右に認定したところによれば、原告優子の症状、年齢等に照らし、右両病院入院中の全期間(三九四日)を通じて日額二〇〇〇円の付添看護費を認めるのが相当であるから、この間の付添費は合計七八万八〇〇〇円(二、〇〇〇円×三九四)となる。

(2) 症状固定後の費用 三〇四八万五〇一九円

原告優子は、前記のとおり、ベツドから車椅子への移乗、段差のある箇所での車椅子の移動、立位動作等に介助を要する状態にあり、症状固定後、平成五年一〇月一日まではボバースに入院し、同病院退院後は通院による自宅療養をしているところ、右介助や通院付添い等の介護費用は、前記認定事実等諸般の事情に照らすと、症状固定日(原告優子一七歳)から平均余命期間である六五年間(平成四年簡易生命表に基づき、一年未満切捨て)にわたり、全体として(ボバース入院中や原告ヨシヱの六七歳以降についても)日額三〇〇〇円と認めるのが相当である。したがつて、ホフマン式計算法により年五分の中間利息を控除して症状固定後の介護費の本件事故時における現価を算出すると、次のとおりとなる。

三、〇〇〇円×三六五×(二八・七九二五-〇・九五二三)=三〇四八万五〇一九円

なお、原告優子は、右介護費につき、常時介護の費用を主張するところ、前記のとおりの原告優子の症状に照らし、これを認めるのは相当ではなく、このことは、甲五九の1ないし3によれば、原告優子は自動車事故対策センターによつて、常時介護を必要とする者には該当しないと判断されたことが認められるので、右事実に照らしても明らかである。

また、被告は、将来の介護費は、一定期間に限定すべき旨主張するが、原告優子の前記症状に照らし、被告主張の期間の経過により、介護費を要しなくなるとは認め難いので、被告の右主張は採らない。

(三) 付添人寝具費用 〇円

右費用は、前記(二)(1)の付添看護費に含まれるから、損害とは認められない。

(四) 交通費 三二二万〇二八六円

(1)  症状固定まで 〇円

症状固定までの入院付添や見舞のための文通費中、入院付添のための費用は・前記二(1)の入院付添看護費に含まれ、見舞いのための費用は本件事故と相当因果関係ある損害とはいえない。

(2)  症状固定後ボバース退院まで 三五七〇円

ボバース入院中の原告ヨシヱと同民男の交通費は、右(1)と同様の理由で認められない。

証拠(乙四の2)及び弁論の全趣旨によれば、原告優子は、ボバース入院中に自宅外泊り訓練を受け、そのためのタクシー代三五七〇円を要したことが認められる。

(3)  ボバース退院後 三二一万六七一六円

<1> 平成五年一二月末日まで 一八万八六四六円

証拠(甲四二の1ないし48、原告ヨシヱ)及び弁論の全趣旨によれば、原告優子は、星ケ丘病院やボバースに、行きはタクシー、帰りは原告民男の運転する自動車によつて通院したこと、平成五年一二月末日までの右費用としてタクシー代一四万五四七〇円及びガソリン代四万三一七六円を要したことが認められる。

<2> 平成六年一月一日以降 三〇二万八〇七〇円

前記のとおりの原告優子の症状や医師がリハビリ通院を要する旨診断していること等に照らすと、平成六年一月以降、同原告の主張する五年間、星ケ丘病院やボバースへの前記頻度の通院を要し、その交通費として、月額、右<1>の平均額に相当する六万二八八二円を要すると認められる(甲五八の1ないし315によれば、平成六年一月以降同七年七月までに、通院のためのタクシー代一四三万円余を要したことが認められるので、右事実に照らしても、月額六万二八八二円は相当である。)ので、右期間に必要な通院交通費の本件事故時における現価を、ホフマン式計算法によつて年五分の中間利息を控除して算出すると次のとおりとなる。

六二、八八二円×一二×(五・八七四三-一・八六一四)=三、〇二八、〇七〇円

(三) 入院雑費 七九万二六〇〇円

(1)  症状固定まで 五七万五九〇〇円

前記のとおり、原告優子は、本件事故により、平成四年一月一日から症状固定の同五年三月一八日までの四三三日間入院したところ、入院期間は比較的長期ではあるが、後記(七)のとおり、おむつ代を要したことや、前記症状等に照らすと、一日当たり一三〇〇円の雑費を要したと認めるのが相当であるから、次のとおりとなる。

一、三〇〇円×四四三=五七五、九〇〇円

(2) 症状固定後ボバース退院まで 二一万六七〇〇円

原告優子は、前記のとおり、症状固定後平成五年一〇月一日までの一九七日間、ボバースに入院したところ、この間、前記症状等に照らし、一日当たり、同原告主張の一一〇〇円の雑費を要したと認めるのが相当であるから、次のとおりとなる。

一、一〇〇円×一九七=二一六、七〇〇円

(六) 医療器具代等 一三万一五〇〇円

証拠(甲三六の1、2、原告ヨシヱ)及び弁論の全趣旨によれば、原告優子は、平成五年四月六日から同年五月五日までの車椅子レンタル代四五〇〇円、ハイバツク式車椅子代一二万七〇〇〇円を要したことが認められる。

(七) 紙おむつ等特別雑費 〇円

(1)  症状固定まで 〇円

証拠(甲三七の1ないし65、原告ヨシヱ)及び弁論の全趣旨によれば、原告優子は、本件事故当日から症状固定日までの前記四四三日の入院期間中に、紙おむつ代やテイツシユペーパー代として一二万〇〇二二円を要したことが認められるが、右は、その金額等に照らし、前記入院雑費に含まれると解するのが相当であるから、損害とは認められない。

(2)  症状固定後 〇円

証拠(甲三八の1ないし7、原告ヨシヱ)及び弁論の全趣旨によれば、原告優子は、症状固定後のボバース入院中に紙おむつ代一万一〇七三円を要し、ボバース退院後平成五年一二月一九日までに紙おむつ代三八三九円を要したことが認められるものの、ボバース入院中の右代金は、前同様の理由で損害とは認められない。また、退院後の右代金については、その額等に照らし、慰謝料で考慮するのが相当である。

(八) 文書料 二万七三八〇円

証拠(甲三九の1ないし13)及び弁論の全趣旨によれば、原告優子は、本件事故により文書作成料二万七三八〇円の支出を余儀なくされたと認められる。

(九) 医師への謝礼 五万

証拠(甲四〇の1、2、原告ヨシヱ)及び弁論の全趣旨によれば、原告優子は、富永病院や星ケ丘病院の医師らに対し、合計八万円相当の商品券等を贈つた事実が認められるところ、右のうち五万円をもつて本件事故と相当因果関係のある損害と認める。

(一〇) 自宅改造費 四一八万一三〇〇円

証拠(甲四三の1ないし4、四六ないし四八、検甲一四ないし二九、原告ヨシヱ)及び弁論の全趣旨によれば、ボバース退院後の車椅子による生活を可能にするため、自宅一階の和室を板張りの洋間にし、一階の居間、風呂場、便所、洗面所等の出入口を車椅子が通れるよう拡大して引戸や折戸にし、押入れをクローゼツトにして部屋を広くする等の工事を施工し、合計四一八万一三〇〇円を要したことが認められ、右費用は本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。

(一一) 特別寝台費等 四万一九〇〇円

証拠(甲四四の1、3、4)及び弁論の全趣旨によれば、原告優子の自宅療養のための特殊寝台等の自己負担金として合計四万一九〇〇円を要したことが認められ、右費用は本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。

なお、原告優子は、右特殊寝台と同時(平成五年九月一八日)に購入したシーツ代六一〇八円(甲四四の2)を請求するが、右費用は本件事故と相当因果関係のある損害とはいえない。

(一二) 逸失利益 四六七八万三一四七円

原告優子は、前記のとおり、本件事故当時、一六歳の高校一年生であつたから、一八歳から稼働年齢である六七歳までの四九年間就労し、少なくとも、同原告主張の平成四年産業計、企業規模計、女子労働者の学歴計一八ないし一九歳の年間平均賃金である二〇二万三三〇〇円を得る蓋然性が認められるところ、前記障害によつて、労働能力を一〇〇パーセント喪失したと認められるから、ホフマン式計算法によつて年五分の中間利息を控除して本件事故時の現価を算出すると、次のとおりとなる。

二、〇二三、三〇〇円×(二四・九八三六-一・八六一四)=四六、七八三、一四七円

(一三) 慰謝料 二五五〇万円

前記入院期間、症状及び後遺障害の内容、原告民男、同ヨシヱについても慰謝料が認められること等本件に顕れた一切の事情を総合して勘案すると、入通院慰謝料は三五〇万円、後遺障害慰謝料は二二〇〇万円をもつて相当と認める。

(一四) 右(一)ないし(一三)の各損害を合計すると、一億一二二二万八五七二円となり、右から前記した既払額三二〇三万四三五〇円を控除すると、八〇一九万四二二二円となる。

(一五) 弁護士費用 六〇〇万円

本件事案の内容等一切の事情を考慮すると、右額が相当である。

(一六) 損害額合計 八六一九万四二二二円

2 原告民男及び同ヨシヱの損害

(一) 原告民男の固有の慰謝料 一五〇万円

原告ヨシヱの固有の慰謝料 二〇〇万円

原告民男及び同ヨシヱと原告優子の関係、前記後遺障害の内容、原告ヨシヱは勤務していた会社を退職して原告優子の看護を続けてきたこと等本件に顕れた一切の事情を総合して勘案すると、右額が相当である。

(二) 弁護士費用

原告民男 一五万円

原告ヨシヱ 二〇万円

本件事案の内容等一切の事情を考慮すると、それぞれ、右額が相当である。

三  以上によれば、原告らの請求は、原告優子につき八六一九万四二二二円、原告ヨシヱにつき二二〇万円、原告民男につき一六五万円及び右各金員中の弁護士費用を除いた主文掲記の各金員に対する不法行為日の翌日である平成五年一月二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を求める限度で理由がある。

(裁判官 下方元子 佐々木信俊 島村路代)

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